2017年1月25日水曜日

第5回動的語用論研究会(旧名称:京都語用論コロキアム)開催のご案内(2017年3月5日(日))


「第5回動的語用論研究会(旧名称:京都語用論コロキアム) --動的語用論(Dynamic Pragmatics)の構築へ向けて」






「第5回動的語用論研究会(旧名称:京都語用論コロキアム) --動的語用論(Dynamic Pragmatics)の構築へ向けて」(京都工芸繊維大学・田中廣明研究室主催)を、第1回目、第2回目、第3回目、第4回目と同じく、京都工芸繊維大学で、来る3月5日(日)に開催いたします。今回も、「動的語用論の構築へ向けて」と題し、「コミュニケーションのダイナミズム:常態からの逸脱」をテーマに掲げたいと思います。第一部では「更新・構文化・変化と創発」をキーワードにして3つの研究発表を、第二部で「身体的教示場面における言語使用」を中心に、それぞれの講師に切り込んでいただきます。

 第一部では、名塩征史氏(静岡大学)、早瀬尚子氏(大阪大学)、滝浦真人氏(放送大学)・椎名美智氏(法政大学)による研究発表を行います。第二部では、特別講演に伝康晴先生(千葉大学)をお迎えし、「身体的教示場面における言語使用:アドレス性について考える」と題して、特別講演を行っていただきます。

  今回の第5回動的語用論研究会(旧名称:京都語用論コロキアム)の開催が、我が国の言語研究に一石を投じられたらという願いで開催したいと思います。ふるってご参加ください。

日時:2017年3月5日(日)1:20P.M.~6:30 P.M.
場所:京都工芸繊維大学(松ヶ崎キャンパス)60周年記念館1階記念ホール
http://www.kit.ac.jp/

交通案内 
http://www.kit.ac.jp/uni_index/access/

最寄り駅から松ヶ崎キャンパスへの案内 
http://www.kit.ac.jp/uni_index/matsugasaki/

キャンパスマップ 
http://www.kit.ac.jp/uni_index/matsugasaki/

受付:1:00 p.m.~
趣旨説明:1:20p.m.~1:30 p.m.
「講師紹介&コミュニケーションのダイナミズム:常態からの逸脱」:田中廣明(京都工芸繊維大学)

第一部 1:30 p.m.~4:20 p.m.
「コミュケーションのダイナミズム:常態からの逸脱:更新・構文化・変化と創発」 
【研究発表】
1.名塩征史(静岡大学) 1:30 p.m.~2:20 p.m.
「会話のダイナミクスを支える指標野の変容
−参与者間で共有される枠組みの更新に焦点を当てた事例研究−」

2. 早瀬尚子(大阪大学) 2:30 p.m.~3:20 p.m. 
「従属節からの談話標識化の諸相-構文化との関連から」

3.滝浦真人(放送大学)・椎名美智(法政大学) 3:30 p.m.~4:20pm.
「『させていただく』について発表させていただきます。」

第二部4:30 p.m.~6:30 p.m. 「コミュケーションのダイナミズム:身体的教示場面における言語使用」 .
特別講演:4:30 P.M.~6:30 P.M.
伝康晴先生(千葉大学)
「身体的教示場面における言語使用:アドレス性について考える」

連絡先:田中廣明(京都工芸繊維大学)
  〒606-8585 京都市左京区松ヶ崎橋上町 京都工芸繊維大学
  Tel. 075-724-7252(田中廣明研究室直通)Email:
htanaka@kit.ac.jp
参加費は無料。事前登録必要なし。(京都工芸繊維大学の周り(地下鉄松ヶ崎駅周辺)は、あまり食事をするところがありません。昼食は他所で済ませてきていただけたらと思います。)
終了後、懇親会5,000円(場所は未定。懇親会参加希望者は田中廣明まで上記メール宛先にご連絡をいただけたら)

世話人兼発起人:田中廣明(京都工芸繊維大学)・岡本雅史(立命館大学)・小山哲春(京都ノートルダム女子大学)・木本幸憲(名古屋大学PD)・西田光一(下関市立大学)・五十嵐海理(龍谷大学)


発表要旨
「会話のダイナミクスを支える指標野の変容
−参与者間で共有される枠組みの更新に焦点を当てた事例研究−」
名塩征史(静岡大学)
 本発表では、会話(相互行為)を構成する各言語・非言語行動の意味付けの基盤となる指標野が、会話の深層で更新され変容する過程について一考を加える。
 「指標野」とは、より一般的な用語である「コンテクスト」とほぼ同義であるが、本発表では次のような意図を明確にするため、あえて「指標野」という語を用いる。その意図とはすなわち、指標野の構成要素となる多種多様な情報群をそれぞれ異なる枠組みを形成するものとして質的に区別し、相互行為中の各出来事がそれらの枠組みとの間に持つ指標関係、特に「創出的な指標(entailing indexicality)」[1]を、出来事がその場の指標野を更新し変容させる認知的手続きとして動的に捉え直そうとするものである。会話が指標性(コンテクスト依存性)の高い言語行動の連鎖であるならば[1]、この指標野のダイナミクスは、語用のダイナミクスと表裏一体の関係にあると言っても過言ではないだろう。
 本発表では、次の二つの事例をもとに、それぞれ異なる視座から指標野の更新と変容、そしてそれを参与者間で共有し共通基盤とする会話の一場面を記述する。一つ目の事例は、積み木とチェスの駒の配置がどのような事柄を表現しているかを当てる実験的な活動の中で二人の参与者が互いに話し合いながら思考する場面である。この事例を通して、参与者たちが共通の解釈に達する過程で共有し指標する「解釈の枠組み(interpretative framework)」[2]について論じる。二つ目の事例は、理容室において理容師と客の間で交わされていた会話に、その場に居合わせた両者の妻が段階的に参与者として組み込まれていく場面である。この事例を通して、各参与者が指標する「参与の枠組み(participation framework)」[3]の更新と、それに伴う慣例の反故について論じる。
【参考文献】
[1] マイケル・シルヴァスティン(著), 小山亘(編), 榎本剛士, 古山宣洋, 小山亘, 永井那和(共訳)(2009).『記号の思想 現代言語人類学の一軌跡 マイケル・シルヴァスティン論文集』三元社.
[2] Goodwin, C. (2002). Conversational Frameworks for the Accomplishment of Meaning in Aphasia. In C. Goodwin (ed.), Conversation and Brain Damage. Oxford and New York; Oxford University Press.
[3] Goffman, E. (1981). Forms of talk. University of Pennsylvania Press.

「従属節からの談話標識化の諸相-構文化との関連から」
早瀬尚子(大阪大学)
 英語では従属節タイプの表現が次第にその機能を変化させて談話標識的な役割を果たすことがある。本発表では特に次のような分詞由来の表現に焦点を当て、その成立するプロセスについて考えてみたい。特に、具体的なconstructに相当する表現が新たな意味を持つように変化していくプロセスは語彙化ともとらえることができるが、似たような構造でこの語彙化現象が起こっていくことを考え合わせると、より広い視点から「構文化」としてとらえなおす可能性を探ってみたい。
(1)    a. Granted that he is clever, he is not so responsible.
        b. Granted, he is a teacher.
(2)    a. Having said that he is clever, he is not so responsible.
        b. Having said that, He is not so responsible.
(3)    a. Speaking of yesterday’s election, it is a shame that…
        b. Speaking of {which/that}, it is a shame.
(4)    a. Talking of yesterday’s meeting, nobody realized that…
        b. Talking of {which/that}, nobody realized that…

「『させていただく』について発表させていただきます。」
滝浦真人(放送大学)・椎名美智(法政大学)
 現代日本語における敬語や授受表現をめぐる人びとのポライトネス意識を、ベネファクティブ表現の一形式である「させていただく」の調査を通じて探る。「『させていただく』症候群」と言われるほど顕著になっている「させていただく」現象は、敬意逓減による丁重語代替表現の希求や、受益者敬語の使用における“授益”性の回避、授受表現内部での「くださる」から「いただく」へのシフトなど、複合的要因による問題系として捉えることで、はじめて包括的に了解することができる。発表者(椎名)は、「させていただく」の許容条件の範囲と浸透度を探る調査によって、「させていただく」現象に関与している言語内的/言語外的要因を特定し、現在の日本語における「させていただく」をめぐる(イン)ポライトネス問題を解明しようとしている。今回は途中経過として、「させていただく」が本来的な使役性や受益性を表す表現から、そうした要素を析出・分離できない丁寧語的な(擬似)へりくだり表現となる、「文法化」が通時的に進行しつつあることなどを報告する。私たちが日本語ベネファクティブ表現に感じる“恩”に、新しい側面から光を当てたい。

「身体的教示場面における言語使用:アドレス性について考える」
伝康晴(千葉大学)
 本発表では、柔術道場における技術指導場面をおもに取り上げ、指導者が身体動作の教示を行なう際の言語使用について事例分析で検討する。技術指導においては、練習生の中から1名をパートナー(通常、その日の参加者の中で最上位の者)に指名し、特定のテーマに関する技能を2人で実演しながら、まわりの練習生たちに説明する。パートナーは事前に練習内容を知らされていないため、指導者の説明を聞きながら、臨機応変に対応する。このような即興的な相互行為が可能になるよう、指導者は、練習生たちに宛てた説明の中に、パートナーの次の動きに関する「指示」を巧みに埋め込んでいる。この意味で、指導者の説明は二重のアドレス性を持つ。本発表では、事例の微視的分析を通じて、この仕組みを詳細に見ていく。時間があれば、日常場面での共同作業(家具の組み立て)中の指示の事例も対照的に取り上げ、一対一の相互行為においても直接指示とは異なるアドレス性が見られることを論ずる。