2016年1月5日火曜日
「動的語用論(Dynamic
Pragmatics)の構築へ向けて」
「第3回京都語用論コロキアム(Kyoto Pragmatics Colloquium:
KPC) --動的語用論(Dynamic Pragmatics)の構築へ向けて」(京都工芸繊維大学・田中廣明研究室主催)を、第1回目、第2回目と同じく、京都工芸繊維大学で、来る3月13日(日)に開催いたします。今回も、「動的語用論の構築へ向けて」と題し、第一部で「コミュニケーションのダイナミズム:事例語用論・発話の創発・言語変化のメカニズム」を中心に3つの研究発表を、第二部で「コミュケーションのダイナミズムと文脈のメカニズム」を中心に、二つの側面に分けてそれぞれの講師に切り込んでいただきます。第一部では、吉川正人氏(慶應義塾大学(非))、高梨博子氏(日本女子大学)、柴崎礼士郎氏(明治大学)による研究発表を行います。第二部では、特別講演に加藤重広先生(北海道大学)をお迎えし、「動的な文脈設定と線条的語用論の試み」と題して、特別講演を行っていただきます。
「第1回開催趣旨より」:
日時:2016年3月13日(日)1:20 p.m.~6:30 p.m.
場所:京都工芸繊維大学(松ヶ崎キャンパス)60周年記念館1階記念ホール
http://www.kit.ac.jp/
受付:1:00 p.m.~
趣旨説明:1:20 p.m.~1:30 p.m.
【研究発表】
1.吉川正人(慶應義塾大学(非))1:30~2:20 p.m.
2.
高梨博子(日本女子大学)2:30~3:20 p.m.
3.柴崎礼士郎(明治大学)3:30~4:20pm.
連絡先:田中廣明(京都工芸繊維大学)
〒606-8585 京都市左京区松ヶ崎橋上町 京都工芸繊維大学
Tel. 075-724-7252(田中廣明研究室直通)Email:
htanaka@kit.ac.jp
参加費は無料。事前登録必要なし。
終了後、懇親会4,000円(場所は未定。懇親会参加希望者は田中廣明まで上記メール宛先にご連絡をいただけたら)
世話人兼発起人:田中廣明(京都工芸繊維大学)・岡本雅史(立命館大学)・木本幸憲(京都大学 アジア・アフリカ地域研究研究科)・西田光一(下関市立大学)・小山哲春(京都ノートルダム女子大学)・五十嵐海理(龍谷大学))
「事例語用論 (Exemplar Pragmatics) に向けての試論」
「『遊びのフレーム』における個性形成の動的特性について-対話性と間主観性の視座から」
本発表は、ことばのやりとりという相互的な行為を通して動的に形成される会話参与者たちの「個性」について考察するものである。従来の研究では、「アイデンティティ」は、主として社会的属性をベースにとらえられてきたが、概念的には「アイデンティティ」に包摂される「その人らしさ」という個性が、静的に固定したものとして個人の内部に存在するのではなく、言語相互行為の中で相手の個性と接触することによって創発したり引き出されたりする動的な性質を有していることを述べるものである。本発表は、このように相手との関係性によって形成される個性について、Du Boisが提唱する対話的かつ間主観的行為である「スタンステーキング」と、その現象としてとらえられる「響鳴」(Du Bois 2007, 2014)という概念を用いて、実際の会話データを分析する。
定延(2011)は、「キャラクタ」という用語を用いて、個性は明示的に言及されるものではないと述べているが、本研究でも、個性は真面目かつ意図的に「表される」のではなく、行動やメタメッセージに自ずと「表れる」と考える。この考え方を前提として、本発表では、会話で自然発生する「遊びのフレーム」内のメタメッセージを通して表れる会話参与者たちの個性に着目し、話し手が自分のことを茶化して開示したり、聞き手がそれをからかったりする遊びの行為を観察する。データ分析では、各場面で個性が間主観的に認識・評価されて蓄積されていくほか、それぞれの場面を超えて表れる個性の各要素が無理なく結びつくことを示す。さらに、開示する者とからかう者の役割が「相補的響鳴」パターンとして表れることも提示する。
「構文変化と構文化について-日本語と他言語からの事例研究-」
本発表では、近年注目を集めている「構文変化」および「構文化」(Traugott
& Trousdale 2013; Traugott 2014, 2015)の理論的枠組みの下で、文頭・節頭(以下文頭と略記)に生起する日本語表現および対応する他言語の表現を考察する。具体的には、文頭に使用される漢語系副詞群に焦点を当て、特に「事実(事實), ...」を取り上げて明治期以降の史的発達を考察する。尚、本発表は柴﨑(2015)に基づいている点を付記しておく。
北原・他(2006)によれば、文末・節末(以下文末と略記)に使用される「事實也」(名詞+繋辞)のような述部用法は平安期から確認可能であるが、文頭に使用される副詞用法は20世紀初頭からと記述されている。そこで本発表では以下の分析手続きをとる。まず、国立国語研究所から公開されている近代語コーパス(『国民の友コーパス』、『明六雑誌コーパス』、『近代女性雑誌コーパス』、『太陽コーパス』)を使用し、明治大正期における「事実(事實)」の文頭副詞機能の発達経緯を詳細に分析する。その後、同じく国立国語研究所による『現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)』(特に書籍ジャンル)を用いて1970年代から2000年代初頭における直近の変化を捉える。更に、文中機能(e.g.「~事実であるが、...」)の発生経緯も考察し、「文末>文中>文頭」への機能拡張を明らかにする。
Traugott & Trousdale (2013)によれば、「構文変化」とは意味(meaning)あるいは形式(form)のうちどちらか一方のみの変化を示し、「構文化」とは意味と形式が共に新規なものへ変化したことが確認できる場合にのみ用いられる。「事実(事實)」の場合には、「文末>文中>文頭」へと明らかな構文化(の連鎖)が確認できる。一方、「事実(事實)なり/事実(事實)なるが」という文末・文中用法の場合、対応する「事実(事實)である/事実(事實)であるが」や「事実(事實)です/事実(事實)ですが」が派生する。丁寧さの変化は意味変化と捉えることが可能であるが、3形式に共通する「名詞+繋辞」には本質的な変化は確認できないため「構文変化」と見做すこととなる。こうした構文変化は談話・語用論機能の発達に伴うものであり、その意味で、本コロキアムの趣旨である動的語用論と軌を一にする。
「動的な文脈設定と線条的語用論の試み」
語用論は「文脈の科学」だと説明することがあるが,「文脈」についてはさまざまな考え方が見られる。その中で,一方の極にあるのは,文脈の内実をあらかじめ定めたりせずに分析に必要な情報を,関与する文脈として事後に取り込んで,解釈や推意の計算を精密に行う方法である。この枠組みでは,文脈は帰納的に同定されるので便宜上「帰納的文脈論」と呼ぶとすると,この対極には,あらかじめ文脈の種別をカテゴリーとして設定し,どのように文脈のなかで解釈の計算がなされるかと時間軸に沿ってとらえる「演繹的文脈論」がありうる。演繹的に設定される文脈を線条的な「解釈処理」のプロセスに活用する枠組みを記憶の種別と対応させつつ,論じる。演繹的な文脈論は,動的に展開する談話の流れを記述する上でいかなる利点や欠点があるのか,についても,併せて論じたい。日本語は,演繹的な文脈論から見ると,談話記憶か知識記憶かの違いに敏感な言語とみられる点にも言及する。
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