2015年9月8日火曜日


2回京都語用論コロキアム(Kyoto Pragmatics Colloquium)


「動的語用論(Dynamic Pragmatics)の構築へ向けて」


 

「第2回京都語用論コロキアム(Kyoto Pragmatics Colloquium: KPC) --動的語用論(Dynamic Pragmatics)の構築へ向けて」(京都工芸繊維大学・田中廣明研究室主催)を、第1回目と同じく、京都工芸繊維大学で、来る926日(土)に開催いたします。今回は、「動的語用論の構築へ向けて」と題し、第一部で「コミュニケーションのダイナミズムと言語変化のメカニズム」を中心に、第二部で「コミュケーションのダイナミズムと言語発達のメカニズム」を中心に、二つの側面に分けてそれぞれの講師に切り込んでいただきます。第一部では、Enfield (2014)Natural Causes of Meaningの問題意識を中心に、木本幸憲氏(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科)による同書の報告と北野浩章先生(愛知教育大学)、岡本雅史先生(立命館大学)によるコメントと全体ディスカッションを行います。さらに、第二部では、特別講演に松井智子先生(東京学芸大学)をお迎えし、「語用能力の発達と障害:実験語用論の手法」と題して、特別講演を行っていただきます。

「第1回開催趣旨より」:

動的語用論とは何であるのか。実はまだ、定まった定義はありません。語用論そのものが本来的に動的であるはずだという定義からは、トートロジーに陥るかもしれません。他の領域の言語研究でも、動的統語論、形式意味論、認知言語学、文法化、また会話分析なども、言語の動的な側面を扱っていることには代わりはないとされています。語用論の分野でもGriceや発話行為理論から関連性理論へと、また近年のmultimodal的な側面を重視する研究など、理論的、あるいはまた逆に実際的・語法的な研究は多く行われてきました。ただし、現実の発話のやりとりにおいて、話し手と聞き手がどのように、発話の規約や原理を屈指し、それに沿った(あるいは逸脱して)発話構築をお互いに影響しあって行っているのか、それがお互いの伝達的な意味(伝達意図など)に沿った働きをどのように行っているのかは、まだまだ未開拓な分野であるように思われます。

今回の第2回京都語用論コロキアムの開催が、我が国の言語研究に一石を投じられたらという願いで開催したいと思います。ふるってご参加ください。

 

なお、上記Enfield (2014)80ページほどの短い小冊子で、以下のサイトから自由にダウンロードが可能です。ご参加いただける方は、ダウンロードされることをおすすめしますが、前もってお読みいただくことは求めておりませんし、また前提となる知識は全く必要ありません。ご自由ご闊達なご意見を求めております。またその下のサイトは、Enfield氏ご自身による紹介ビデオです。さらに、Nick Enfield氏は、今年度の日本語用論学会第18回大会(2015125日(土)6日(日)於・名古屋大学)へ特別講演講師として招聘が予定されております。

Enfield(2014) Natural Causes of Meaningのダウンロード可能なサイト:


Enfield氏による紹介ビデオ:


・日本語用論学会: http://www.pragmatics.gr.jp/

 

日時:2015926日(土)1:30 p.m.5:30 p.m.

場所:京都工芸繊維大学(松ヶ崎キャンパス)60周年記念館1階記念ホール


交通案内 http://www.kit.ac.jp/01/01_110000.html

最寄り駅から松ヶ崎キャンパスへの案内 http://www.kit.ac.jp/02/matugasaki.html

キャンパスマップ http://www.kit.ac.jp/01/gakunaimap/matugasaki.html

 

受付:1:00 p.m.

趣旨説明:1:30 p.m.1:40 p.m.

「動的語用論の構築へ向けて」:田中廣明(京都工芸繊維大学)

 

第一部 1:50 p.m.3:45 p.m.「コミュケーションのダイナミズムと言語変化のメカニズム」 

【集団討議・Enfield (2014)の報告とディスカッション】

報告者:木本幸憲(京都大学 アジア・アフリカ地域研究研究科)

「言語変化の理論化に向けて:Enfield (2014) 書評」

ディスカッサント:北野浩章(愛知教育大学)・岡本雅史(立命館大学)

 

第二部4:00 p.m.5:30 p.m. 「コミュケーションのダイナミズムと言語発達のメカニズム」 .

特別講演:4:00 p.m.5:30 p.m.

松井智子先生(東京学芸大学教授)

「語用能力の発達と障害:実験語用論の手法」


連絡先:田中廣明(京都工芸繊維大学)

  〒606-8585 京都市左京区松ヶ崎橋上町 京都工芸繊維大学

  Tel. 075-724-7252(田中廣明研究室直通)Email: htanaka@kit.ac.jp

参加費は無料。事前登録必要なし。

終了後、懇親会4,000円(場所は未定。懇親会参加希望者は田中廣明まで上記メール宛先にご連絡をいただけたら)

 

世話人兼発起人:田中廣明(京都工芸繊維大学)・岡本雅史(立命館大学)(第1回目世話人:西田光一(下関市立大学)・小山哲春(京都ノートルダム女子大学)・五十嵐海理(龍谷大学))

 

発表要旨


「言語変化の理論化に向けて:Enfield (2014) 書評」

木本幸憲(京都大学 アジア・アフリカ地域研究研究科)

本発表は、Enfield (2014)  Natural causes of languageの書評を行う。複数の時間フレームを想定し、従来から指摘されてきた系統樹モデルに変わる言語変化のモデル化を試みている。特に言語発達、話し手・聞き手間の相互行為など、ミクロかつ動的な要因に目を向けながら、言語学の黎明期から議論されてきた言語の通時的変化・バリエーションに関わるメカニズムを具体的に明らかにしようとしている。本発表では、この議論の背景となる比較言語学の手法、比較方法(Comparative method)や、関連する研究文脈(e.g. 認知言語学におけるUsage-Based Model)にも言及しつつ、Enfieldの議論を進めていきたい。

 

語用能力の発達と障害:実験語用論の手法

松井智子(東京学芸大学)

コミュニケーションにおいては、言葉や文の意味が「文脈」によって変化する。つまり、文が意味することと話し手が意味していることは必ずしも同じではない。それでも大抵の場合、聞き手は会話のなかで、言葉や文の意味を手がかりに、話し手の意味していることを、推測することができる。このメカニズムを明らかにすることが語用論の目標である。

本講演では、聞き手が文脈を含めたさまざまな手がかりを総合し、推論的に話し手の言わんとすることを理解するために必要な能力を「語用能力」としてとらえ、それがどのように発達するのか、そしてその心理基盤となるものは何かを考えてみたい。これらの問いに対する答えを探るためには、心理的実験と自然会話の分析を組み合わせた実験語用論の手法が有効である。この手法はまた、語用能力がうまく機能しない発達障害(語用障害)の特徴を明らかにするためにも役に立つ。そこで、実験語用論のアプローチを通してこれまでに明らかになった語用能力の発達と障害の特徴について報告し、その結果や方法について皆さんと議論をしながら今後の研究の展望について考えてみたい。

語用能力を支える心理基盤の候補として挙げられているのは、「心の理論」と呼ばれる自己や他者の心を理解する能力である。心の理論は、文化や言語に関わらず普遍的な発達を遂げると言われている。1歳の共同注意、2歳の欲求や感情の理解、3歳の知識の理解、5歳の思考の理解は、心の理論の普遍的な発達の節目として理解されることが多いが、コミュニケーションの視点から見ると、それらが語用能力の発達の重要な節目でもあることがわかる。会話が成立するためには、自分の注意をどこに向けるべきかを理解することや、自分や相手の欲求や感情を理解することが不可欠である。知識がない人、自信のない人からもらった情報は、信じないほうが良いと判断できる力も必要だ。8歳以降に可能になる皮肉や複雑なうその理解も、やはり心の理論という心理基盤に支えられていると考えられる。

このように、人間の語用能力はかなりの程度、普遍的な発達段階を経ることが明らかになりつつある。しかしその一方で、人間のコミュニケーションのスタイルが、個別言語や文化の影響を色濃く受ける性質を持つということもわかっている。そこで、語用能力の発達においても、普遍的な側面と個別言語文化に固有な側面があると仮定したとき、それらを研究的にどのように切り分けることができるかという点についても議論したいと考えている。